HAJIME@大阪

HAJIME@大阪

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グルメ
Published
March 16, 2024
HAJIMEに行ってきたので感想文。

HAJIMEはどういう店か

天才シェフの絶対温度一流の本質という本で店のことを知り、前々から興味があったので、HAJIMEに行くために大阪旅行を企画した。メンバーは新卒同期のフーディと、自由が丘でお世話になってるイタリアンのシェフ。
 
「天才シェフの絶対温度」はシェフの米田肇さんのインタビュー本だ。エンジニアとして就職した後に料理の世界に飛び込み、フランスでの修行や様々な出来事の後、開店後1年5ヶ月というミシュラン史上最短記録で三ツ星を獲得した米田さんの波瀾万丈の半生が描かれている。
個人的にこの本で好きな点は、飽くなきプロフェッショナリティだ。
これで完璧だと思ったらそれはもう完璧ではない。 この世に完璧というものはない。 ただ完璧を追い求める姿勢だけがあるんだよ
プロフェッショナリティというものを、最近はスポーツ選手や料理人から学ぶことが多い。ひたすらに「完璧」を追い求めた先の料理というものを、一度体験してみたかったのでお店に行ってみた。

行ってきた

⚠️
※HAJIMEのコースは、「料理」というより「作品」であり、「食事」というよりは「体験」といった種別の印象。よくできたインスタレーションを見に行くような体験なので、行く予定がある人は、この記事でネタバレを見ずに行った方が良いかも。
 
雨の中、友人と一緒にワイワイ話しながらビルを探して、オフィスビル1Fの無愛想な扉に「HAJIME」と書かれているのを発見。なんか隠れ家っぽい見た目なんだね〜とか言いつつ扉を開けると、どうやらスタッフ用入り口だった模様。雨でやや視界が悪く、車も止まっていたせいか、表の入り口に気づかなかった。恥ずかしい。
スタッフに案内され、正式な入り口へ。中に入ると、暗い室内に間接照明。麻布台ヒルズのトーマス・ヘザウィック建築を思わせるような、有機的で曲線を多用した、乳白色のインテリアを使った室内。そういえば米田さんは雰囲気も拘るようなタイプか。「できれば、ドアの取っ手の温度も調整したいんです」とも言っていたな。この話は「フェルマーの料理」の設定に使われている。
 
そしていよいよ店内へ。8テーブルほどの広い室内。お洒落。
BGMは上質なアンビエント系の音楽。宇宙感がある。プラネタリウムを感じさせる空間設計。
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アルコールペアリングは3品目からスタートということで、1杯目はシャンパンをチョイス。めちゃめちゃに美味い。Le Pre Catranで飲んだシャンパンが人生一美味しかったけど、全く同じグレードのシャンパン。この上質な芳しさ、華やかさ、艶かしさ。それらのバランスが良すぎる。
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1品目は「森 - 湖月」。コンソメスープ。木の上にグラスが乗ってるだけと思ったら、グラスが木に固定されており、木の部分をもって飲むらしい。料理の味だけでなく、見た目の美しさも最上級に拘っているなと感じる。見た目がもはや上質なウイスキーのような琥珀色。中のセップが月のイメージかな。美しい。
コンソメの味も、コンソメではあるがもはや上質なアルコールのような液体。どうやったらこんなにクリアで濃いコンソメになるのか。
セップ(ポルチーニ茸)は一口で食べてと言われる。丸呑みするのに多少デカいのでは…?とか思いつつ、丸呑みしてみるとちょうどいいサイズ、そして一口噛んだら口の中でプツッと弾けて消えた。予想外な食感に驚きつつ、味はめちゃ良い。
1品目と1杯目が大満足で、完全に期待値マックス。
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2品目、「磯 - 海の森」。魚介の小皿が色々でてくる。
どれも美しく、美味しい。牡蠣は液体窒素?で煙をだすパフォーマンスもあり、演出にかなり力を入れているなという印象。
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この後の料理にも言えることなのだが。通常の「美味しいレストランのコースの一品」であれば、「美味しい料理の一皿」が提供されて、それを5〜10口くらいで食べるような体験が普通になる。すなわち、同じ味を何口か食べ続けるのが普通だ。
しかしhajimeのコースの一品は、複数の小皿や、一皿に盛り付けられた複数の具材により構成され、それぞれ一口で食べ終わるのが基本だ。同じ味が2口以上に続かない。そして、その1つ1つが究極に美味い。
それでいて、全体としての調和は保っており、別々の小皿を食べている感覚はなく、1品ごとにテーマ性を感じる。この品目でいえば、それこそ「海の森」という題目の通り、海の様々な具材が様々な調理法で提供され、「森」すなわち生命の多様性や息遣いを感じるような一品になっている。
 
こういった特徴のため、美味しかったものを全て言葉にして残そうとすると、記事の分量が膨大になりそうだ。ということで、かなり端折って書くことにする。
多分、普通の高級フレンチ2-3回分くらいの情報量が詰め込まれたコースだったと思う。実際、入店から退店まで5時間かかっている。しかし、間延びすることは一切なく、楽しく食べてたら気づいたら時間が経っていた。
 
話を2品目に戻して、特に心に残った料理を書く…と思ったが、本当に全部最上級に美味かったので、ハイライトを書くのも難しい。
火を通した牡蠣と胡瓜とヨーグルトは新しい牡蠣の方向性だったし、白子のフリットは言わずもがなに美味い。ムール貝も良かったな。うすい米せんべいみたいなに乗った魚も美味しすぎて笑った。
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3品目、「近海 - 群れ」。ここからワインペアリング開始。2杯目は新政酒造の天蛙。前に西麻布eurekaで飲んだことあるかな。新政は全部美味しいね。
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メインは鰆。火は通ってるけど少し生っぽくしっとりしている、火入れの絶妙さに一同が唸る。
そして、先述の通り「鰆が美味しい」だけで終わらないのがhajime。鰆の周りに「群れ」の小魚をイメージしたような具材があしらわれており、見た目にも美しく可愛いが、これらがリンゴのソースだったり、八丁味噌と豆だったり、様々な味付けでそれぞれが美味しく、そして鰆と合わせるとまた新しい味となり、同じ味が2口以上に続かないような設計。「海の森」に引き続き海のイメージを感じさせられつつ、大小様々な魚が泳いでいる近海のイメージが想像される。そしてそれに新政の日本酒を合わせると、日本の近海らしさが漂う。
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4品目「地球」。HAJIMEのスペシャリテ。
100品目の野菜を使い、地球を表現している。手前が山、その上の白い泡は雲、そしてそのソースが流れ着いた先の中央は海。他の大皿料理は全て白い皿で提供されたが、この料理だけは青い皿であり、地球を表現していそう。
具材のそれぞれは1口、ないし0.5口くらいで食べ終わってしまうようなサイズ。それが大皿の上に散りばめられている。「海の森」でも感じたが、1つのメイン具材で構成される料理ではなく、多種多様な具材が、それぞれ120点の調理をされつつ散りばめられていて、それが調和をもって全体を構成しているような一品。そしてそこから地球の自然がイメージされる。
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個人的には、こういうアート的な作品の「地球をイメージして作りました」のようなコンセプトが嫌いだ。単なるこじつけにしか見えない作品が9割で、だからどうした?と思ってしまうことがほとんどだからだ。
しかし残り1割の「本物」の作品は、試行錯誤と探究の上の「必然性」がそこに存在する。作品の全ての細部に「なぜこうしたのか」「なぜこうしなかったのか」という意図が存在する。そういった意図を読み解いていくのは正しいし、細部までこだわり抜いて神が宿った作品を見るのは楽しい。
そしてHAJIMEの料理は「本物」の側であり、1つ1つに必然性がある。いや、必然性があるように感じられるほどの説得力がある。「料理で地球をイメージしました」なんて他のレストランで言われたら多分自分は失笑してしまうが、このクオリティとなると、素直にそのコンセプトを楽しめる。
突然のブルーピリオド。しかし感じることはこれ
突然のブルーピリオド。しかし感じることはこれ
 
もう一発。わかる
もう一発。わかる
 
途中から「作品」という言葉を使ってしまったが、まさしくHAJIMEの料理は「食べるアート」であり、「食事」というよりは「体験」という言葉がしっくりくるような場所だ。
逆に言うと、アートを楽しむ素養がないと楽しめないかも。単純に食べても美味しく感じられるものではあるが、単価を考えると、その目的なら3万の寿司屋にでもいった方がいい。
「天才シェフの絶対温度」のエピソードに「フランス料理と名乗るのをやめた」というエピソードがあり、「Hajime RESTAURANT GASTRONOMIQUE OSAKA JAPON」から「HAJIME」という店名にしたという。フランス料理ではなく、自分の料理を作ることにしたというエピソードなのだが、まさしくxxx料理ではなく「HAJIME」という料理を食べに行く感覚だと思う。
 
閑話休題。お味はというと、全てが野菜で構成されており、「素材の味を楽しむ」側の調理が多いので優しい味付け。当然ながらどれも美味しく、生野菜をただそのまま食べてるようなそんな体験ではない。
口コミで「オシャレに盛り付けられたサラダ」と書いて低評価にしている人がいたが、まあなんというか、楽しむ側にも素養を必要とされる値段帯だよね…(感じ方は人それぞれなので、否定はしない)。
ワインペアリングは白ワイン。100品目の野菜に合わせるワインペアリングは難易度高すぎるのでは?と思ったが、野菜全てに合うような懐の深さ。野菜だけを食べると流石に「原始の地球」という印象で、比較的素朴な料理なのは否定できないが、ワインを合わせると華やかさが追加され、「文化」を感じられて良い。
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5品目、「海 - 満ちる」。甘鯛のポアレが出てきたと思ったら、更に追加で出汁をかけてくれて、これが潮が満ちる様子とのこと。出汁の海の上に、葱油?のような緑色の油が浮いていて、それもまた磯っぽくて良い。甘鯛はもちろん火入れが神だし、鱗のサクサクもとても美味しい。そしてそれを出汁とペアリングの日本酒で頂くのがとても良い。
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付け合わせのパンはかなり小ぶり。パン食べるとお腹いっぱいになっちゃうので、これくらいの大きさは個人的に好み。美味しかった。
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6品目、「海 - つながり」。手長海老をメインに、海だけでなく森とのつながりを表したと言う各種野菜が添えられている。こちらに関しても、単純に海老が美味しいのはもちろん、周囲の野菜やソースも美味しく、またそれぞれが多様な味わいを持っており、それを組み合わせるとまた別の味となり、全体でも調和を感じるような作り。題名通りの「つながり」を感じる。
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7品目、「破壊と同化 - 食べるとは」。フォアグラにキャラメルのせたやつ。パリパリのキャラメルを噛んで砕いてしまうことが「破壊」であり、それを消化することが「同化」であり、食事という行為を見つめ直させるようなコンセプト、と言ってた気がする。分からなくもないが、正直このメニューが一番ピンとこなかった。w
一緒に行ったイタリアンのシェフからすると「倫理的な問題で昨今は高級店もフォアグラ使わなくなってきているから、それでもHAJIMEがフォアグラ使ってるのは、多分意味があるはずだ!」とのこと。その場では「考えすぎでは…?」と思ったけど、もはやそういうメニューだったのかも。フォアグラの生産方法は残酷だけど、でも美味しいし、食べるとは結局残酷な行為であることは避けられないよね、的な。
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8品目、「希望<生命と大地の芽吹き> - 露」。口直しの松のグラニテ。グラスがオシャレ。味が本当に松で面白い。
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9品目、「希望<生命と大地の芽吹き> - 大地」。牛肉かな。
ここで「トリュフを別料金でつけられますがいかがですか?」と聞かれる。これが噂のトリュフハラスメント。いや女性と来てるわけでもないのでハラスメントは冗談だが、ここまで完璧なものを提供してきて、そして完璧なものを提供する意思とサービス料金を示しておいて、次の料理をどう仕上げるかを素人に選択させるのか、と少し萎えてしまった。
トリュフをかけるのがこのお店での正解なのであれば、それはデフォルトのコースに組み込んで値上げしてほしい。最高の料理を提供する店であって欲しかった。まあもちろん、ビジネス的な事情はあるんだろうけれど。
そんなことは思いつつ全員トリュフをGO。そして出てくるのはトリュフモリモリで牛肉が見えなくなってる一皿。正直かけすぎでは…と思ったが、トリュフと肉と赤とを一緒に合わせると唯一無二で豪勢な暴力的味わい。美味い。美味いけど、でもやっぱりかけすぎかな?
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10品目、「希望<生命と大地の芽吹き> - 空」。こちらは鴨肉。相変わらず火入れが神。美味しすぎる。盛り付けの鮮やかさ、燻製のパフォーマンスも良かった。この辺はやはりアートとかそっち系の楽しみだな。
美味しかったが、前半のメニューに比べるとテーマ性は感じられず。単純に肉が美味しいので、大地の恵みって感じはする。前半と比較すると集中力が切れてるかも。味の詳細も覚えていないし。
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11品目、「春浅し - 待望」。なにやら白い粉がかかったゴツゴツした透明な器。「上の白い粉をできるだけ多く掬って食べてみてください。その時、お相手の顔を見ていてください」と何やら面白げなことを言われる。言われた通りにやると、鼻から白い煙が出てくる。急にお茶目な料理でてきた。
これで終わりかと思ったら、粉の下に薄い膜があり、それを壊すと下にチーズが入っていた。これにふきのとうのソースをかけて食す。春の苦味と甘さを感じるデザート。
そして透明な器と思っていたものは、氷でできた器だった。ゴツゴツした手触りのこの氷をどうやって作るのかと思ったら、普通に形成する容器があるっぽい。それでこんなのが作れるのか。すごい。
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12品目、「春浅し - 流氷」。登場とともに、パチパチとどこからか音が聴こえると思ったら、料理から音が出ていた。まさしく流氷が溶ける音のよう。シェフの米田さんはしばらく北海道で働いていたはずなので、そこから着想を得ているのかな。単純に音が綺麗で風流で、見た目も涼しげで綺麗で良かった。
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10品目、「愛 - 地球に広がる」。この料理だけコンセプトの紙が配られる。米田さん直筆らしい文章とレシピのアイディアが書かれている。
コンセプトの長文と料理の繋がりは正直あまり感じられなかったが、「愛は様々な表情を表す」というテーマで苺ベースの様々な味が提供されているのは最後まで流石と言う感じ。コンセプチュアルな楽しみというよりは、単純に見た目が美しくて良かった。これにロゼの日本酒を合わせるのも良い。
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11品目、メニューには載っていないがデザート各種。お腹が空いていれば更にもう一品追加でデザートを頼めるらしい。いけなくもないが、ちょうどいいお腹加減だったので我々はスキップ。最後の一品まで全部美味しかった。
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最後のデザートのあたりで時間を確認すると、すでに入店から4時間以上が経過。結局店を出たのはちょうど5時間ほど経過した頃だった。恐ろしい。
とはいえ、途中で間延びした感じはなく、楽しく食べて気づいたらその時間だったという感じ。余裕があれば2軒目に行くかとも思っていたが、全くそんな気持ちにもならずおとなしくホテルへ直帰。
 
翌日にも余韻をひきずるような、映画の超大作を5時間ぶっ続けでみたような体感。我々が集中して望んだからというのはあるが、良くも悪くも鑑賞者を疲れさせる体験だったかも。
しかし、集中して臨むだけの価値があるレストランだと思う。
 
ちなみに気になるお値段はというと、アルコールのフルペアリングコース+1杯目のシャンパン+トリュフ追加で13万円。高いのはもちろんだが、高級フレンチ3回分くらいの情報量がある体験であり、値段相応とも言えると思う。そもそも、唯一無二なこういう体験に対する値段はもはやつけられない気もする。
「食事」にお金を払うと言うよりは「体験」に払うような値段なので、その心構えで行くと良い。
 
これが世界一の料理かは分からないが、少なくとも1つの最高峰であると強く感じた料理体験だった。こんなレストランに他にも行ってみたいし、「完璧」を更新し続けていくだろうHAJIMEにもまた後日いってみたい。