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寿司はワインペアリングの夢を見るか?

寿司にワインは邪道なのか、最高なのか。

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寿司はワインペアリングの夢を見るか?

麻布台ヒルズのインタートワインにていつもお世話になっている松木ソムリエの寿司ワイン会にいってきたので備忘録です。鮨を握るのは大越桃子さん(大越ソムリエの奥様)、主催は川口梓さん。​

寿司とワインのペアリングと言えば、SNSにおいてしばしば論争になる一大テーマ。「寿司にワインなんて邪道」「ワインを無理に合わせる必要はない」などと言う人がいれば、「鮨とワインは最高!」「日本酒は無難な選択肢でしかない」と言う人もいて、日夜きのこたけのこ戦争ばりの議論が繰り広げられています。

この件についての自分のスタンスはというと​「食は最終的には好みなので各々が好きなものを飲めば良い」「他人の趣味嗜好にリスペクトを持たないやつは総じてクソ」​が結論でしかないのですが、それはともかく自分自身の趣味嗜好としては寿司とワインのペアリングは大好物。冒頭から余談で恐縮ながら、自分もこの議論に参戦してみましょう。​

そもそも「寿司ワイン否定派」の意見の多くは「寿司とワインを合わせるのは難しい」「寿司は一貫が小さいポーションであり、そこにワインを合わせようとすると杯数が膨大になる」「そんな準備・選定を飲食店が(個人が)行うのは無理」というもの。これについては自分も完全に同意であり、日本酒の方が幅広い寿司ネタに合わせやすい、懐の広い酒であることに異論はありません。よって、寿司ワイン議論の本質は​「そこまでしてでもペアリングする魅力を感じるか?」​すなわち、結局は趣味嗜好の話に帰着し、他の話は枝葉の話が多いように見えます。​

そこに寿司ワイン肯定派としてプレゼンするならば、​「何にでもあう日本酒」は良くも悪くも「何と合わせても同じ」であり​、それは「料理の味を邪魔しない」「寿司そのものの味に集中する」スタイルになりがちである。それも良いけど、ワインペアリングの​「日本酒では出せない華やかな世界観」「多種多様なワインとの相乗効果による未知の体験」「ソムリエの明確な意志を感じて楽しむ」​というスタイルも面白いですよ!という提案になるでしょう。

ワインと料理の間には「マリアージュ(結婚)」という言葉があり、料理だけではなくワインとの相乗効果を楽しむ文化圏(結婚ってそういうものですよね)(筆者は独身男性)。それに対して、相対的に日本酒の文化圏は「料理の邪魔をしない」側に発達しており、料理単体の味を楽しむことにフォーカスする方向性。この寿司ワイン議論にもその一片が現れているように見えます。Xを見ていても「寿司に集中したい」「ワインを単体で飲んだ方が良い」といったポストが散見されました。

乱暴にまとめれば寿司ワイン否定派は​保守的伝統派な右翼スタイル​であり、自分は​イノベーティブが好きなリベラル左翼スタイル​なのでしょう。だんだんと脱線しますが、これは「フレンチは足し算」「和食は引き算」と言われるような調理スタイルの違いにも近しく感じますし、加点主義・革新性を良しとする国民性の一端のようにも思えて面白いです(…という話をこちらのnoteで述べているのでぜひご笑覧ください。宣伝)。​

自分のイメージでは、​料理が芸術品だとするならば、そこに合わせる酒は展示空間のようなもの​。水墨画(=寿司)は、荘厳な寺(=日本酒)に展示されているのが一番自然なのは当然として、しかしモダンで華やかな美術館(=ワイン)に水墨画が展示されている異質さやギャップもまた面白い。無機質な展示空間で作品そのものに集中するのも良い。​そのどれもがベクトルの違う良さを持っており、自分は全部が好きです​。その上で、水墨画だけだとちょっと単調なので、周りの空間で少し華やかさを添えるような合わせ方が一番の好みですし、ソムリエの何らかの明確な狙いと意志を感じられるペアリングが好きです。

​「寿司には日本酒」「ワインペアリングをする必要はない」といった無理解で無思考な態度こそが嫌うべき対象​であり、様々なスタイルでの美味しさの追求を等しく愛して寿司も日本酒もワインも楽しんでいきましょう。​

ちなみに、そんな自分が大好きなのは広尾の「在」や、青山の「鮨m」。両者共に、ワインと日本酒、そしてカクテルやお茶ペアリングなど幅広くボーダレスなスタイル。皆さま是非ご訪問ください。そして松木ソムリエのこちらの寿司ワイン会も続編があればぜひ。​


​いや余談が長すぎる。​閑話休題。今回の寿司ワイン会の話に戻しましょう。

今回の会場は外苑前のAn Di。大越ソムリエがオーナーのお店であり、普段はワインペアリングが有名なベトナム料理屋。今回は2階を特別会場として桃子さんが目の前で寿司を握ってくれます。

今回の会のタイトルには​「SUSHI x WINE 完全ペアリングワインコース」​と冠されており、松木ソムリエの気合いを感じます。松木ソムリエのセレクトには自分もいつもお世話になっており、始まる前からうま確。

一杯目はカリフォルニアのスパークリングのRacines 2019。普通にシャンパーニュかと勘違いしたくらいの繊細さ、控えめで適度なリンゴの蜜感とブリオッシュ香がとても美味しい。当日は東南アジアのような大雨と湿気と暑さで最悪だったが、それを吹き飛ばす爽やかさと上品さ。

「夏だし先付けもさっぱりしているので、もっと爽やかなものにするかは迷った」「しかし先付けの旨みに合わせるためコクのある泡をチョイス」とのコメントの通り、爽やかさとコクの絶妙なバランス、そして単純なレベルの高さを感じる流石のセレクトでした。

Racinesは欧米でその名を知らぬ者はいないと言われる名ドメーヌであるPierre Pétersがカリフォルニアはサンタバーバラ(サンタ・リタ・ヒルズ)で手がける泡。サンタバーバラは結構南にあるのに海風で激寒な地域として有名。ブラッドピットを始めとする高級シャンパンを散々に飲み尽くした海外セレブが辿り着いた先がPierre Pétersである云々。こういう小話も楽しい(港区おじさん並の感想)。

料理もスタート。先付けの一品目はとうもろこしのすり流し。夏の爽やかさ、自然でほのかな甘みとコク。Racinesとテンションが合っていて良い。

トマトとタコ。トマトはペアリングが難しいとの松木さんのコメントだが、酸味と旨味がRacinesとちょうど良くマッチ。

そしてタコが美味しい!ちょうどよくプリプリした歯応え。トマトとタコの上品な旨味の出汁と、Racinesのコクが爽やかに合う。こういう合わせの世界観は日本酒では難しいよね。

ここで松木さんが​事前のメニューに記載のないKrugを持って登場​​「明らかに赤字では」​と参加者全員に突っ込まれつつ、ご好意でいただくことに。ありがとうございます(平身低頭)。

Racinesと比較すると、明らかにコクと酸味が強く重いボディ。こういう旨みも出ている系の泡には醤油のフレーバーが合うので、逆にシャンパンに合わせる握りは煮切り醤油多めで握るとか。

シャリのお酢の配合は白酢多めで赤酢も少しとのこと。お酒に合うのは赤酢の印象だったので少し意外。赤酢の方が深い旨味とコクがあり、シャリを酒のツマミのように食べれるのが自分は好きなのだが、今回は白酢で上品で繊細に仕上げつつも、松木さんセレクトのワインに寄り添うよう味の調整。安易に赤酢で合わせないスタイルも上品で良きでした。

キンメダイ。体脂肪がすごい!まるで最近の自分のよう(自虐)。

ワインで言えばフルボディの白という印象であり、これはkrugが合う。ラシーヌでも合うけど繊細側の合わせになるかな。

キス。天草のもの。キスってこんな美味しいんだなあ。昆布締めによる旨味、酢橘の酸味がワインと同調。キスの旨みがより引き立つ。

次の白ワインはサントリーニのアシルティコ。松木ソムリエ曰く「塩レモン」。海風を感じるような塩っぽい白ワインであり、自分もアシルティコは大好き。単純に魚介に合う。作り手のドメーヌ・シガラスはギリシャでトップクラスの知名度と力量。

スミイカ。ほんのりとした歯応えがある食感。イカの適度な旨味に、シガラスの塩味がよい。イカに泡だと複雑さが勝っちゃうので、複雑さではなく酸味やミネラルで合わせるべしとの解説。また、サントリーニのワインはアルコール度数が高く、アルコールからくるねっとりした粘性が、似た食感のあるイカにあうとのこと。食感あわせるのも大事。

ちなみに、サントリーニでのブドウ栽培といえばカゴ仕立て(クルーラ)という、ブドウのツタをグルグルと巻いて籠のようにして強風から身を守るなんともユニークな栽培方法が有名。実はアレは一年で一巻き分であり巻いてる数を見ると樹齢がわかるそうです。これ豆な。

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お次は山梨のseven cedars winery(7c)の甲州。意味での水っぽさ、薄さと滋味深さがあり、和食の世界観に合う。松木ソムリエいわく、甲州は樽負けしがちだがここはほんのりと樽が効いており、胡麻や味噌に相性が良いとか。

7cといえば河口湖近くにモダンでオシャレなオーベルジュを構えている。ワイン仲間のイケメン後輩に訪問の感想を聞いたら「サウナが良かったっす!」とワインの味に全く触れない返事が来た。そういうとこだぞ。

小肌。酢締めが強すぎず自然なスタイル。ほんのりとした渋さと透明感が甲州と世界観があっている。これにアシルティコだと酸が強すぎそう。

小肌といえば、広尾の「在」でジュラの白ワインと合わせたのが印象的だったのだが、あれは酸が強くクセモノ同士で合わせて化けたパターン。全体的に本日の握りとペアリングは、奇を衒わずベーシックでナチュラルで高品質な世界観といった印象。

甘エビ。まずネタが美味しい…!甘味旨味とプリプリ食感。そして甲州が違和感なく合う。甲州は酸味が強すぎず、主張が強すぎず、和の世界観に合う、日本酒に近しい世界観といった印象。

アジを握りとなめろうで食べ比べ。

握りは生姜とミネラルの感じでアシルティコが合うが、なめろうは味噌が加わっており甲州が合う。全体の世界観としても、握りはパリッとサクッと食べたいので酸味の強いアシルティコを、なめろうはねっとりじんわりなので甲州の滋味深さといったところ。同じ素材でも調理方法の違いで、ペアリングや全体の世界観が変わるのは面白い。

ドイツはファルツ地方のReibold "Pinot Noir" 2018。​めちゃくちゃ美味しい、、、!!!​普通にブルゴーニュのプルミエクリュ以上のレベルの高さに感じる(松木ソムリエも同意見)。旨味、滋味深さ、醤油っぽさ。松木ソムリエ的には「梅鰹」。お値段は9000円くらいで恐ろしい。

マグロ赤身とも大変あう!桃さんの握りはクセがなくベーシックでモダンな仕上がりであり、そこにベーシックに美味しい赤が合うというか。合わせると赤酢みたいになるという松木さんコメント。

最後の一杯はブルゴーニュの名門ネゴシアンが手がけるボジョレー、Albert Bichot "Beaujolais-Villages Sélection Parcellaire" 2018。​こちらもめちゃくちゃ美味しい……!!!​ガメイといえばボジョレーヌーヴォーの印象で、軽やかフルーティーなスタイルしか知らなかったのですが、適度に濃さのあるガメイ。ワインの美味しさ、驚きでは今日の中だと一番。

そしてネギトロ巻き。フワフワな仕上げ。これがガメイと合う!ペアリングの感動も今日一でした。なんでネギトロ巻きとガメイが合うのだ。自分はやっぱりペアリングに意外性を求めがちかもしれません。これはガメラーまったなし。

穴子もフワッと仕上げ。ベーシックだがモダンという印象かな?美味しい。これには確かにピノではなく、ガメイの軽さが合うなあ。

松木ソムリエの解説だと、ピノよりもガメイの方がタンニンは野暮ったいく土っぽい。これがノリのヨード感やアナゴに合うそう。

会のメニューとしてはここで終わりで、その後は松木ソムリエと桃子さんも着席して和やかに二次会。延々と飲み続けました。​

良い会でした。自分が今までに経験した寿司とワインのペアリングだと、寿司は赤酢、ワインは派手(?)なものが多く、イノベーティブで華やかな世界観が多かったが、今回の松木ソムリエと桃子さんのタッグは、寿司もワインについても落ち着いたベーシックで上品なスタイルであり、ペアリングも未知の味というより素材の味を繊細に引き上げるような方向性。服で例えるならオーラリーといったところ。こういう場で「女性らしい世界観」などと言うのはあまり好きではないのですが、女性ソムリエと女性の鮨職人による上品で繊細なフェミニンなスタイルを強く感じた会でした。

いろんな世界観があって面白いなあ。皆様のオススメの寿司ワインペアリング情報もお待ちしてます。

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Katsuma Narisawa

Software engineer and photographer exploring the intersection of technology and human experience.

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