ナチュールワインはストリートファッション / 最高の結婚と最高の離婚
酒飲みの与太話を珍しく対話形式でお送りします

(虎ノ門のイタリアンにて)
「いやあ、お二人ともワイン詳しいですね!」
「僕はそれほどじゃないですよ。Nさんみたいに資格も持ってないですから」
「いや、Tさんは資格勉強してないのにその知識量なのは、逆に凄すぎますけどね」
「僕ももう少しお酒飲めたらなあ。詳しくなってみたいです」
「Aさんはワイン勉強したらハマると思いますよ」
「そうなんですかね。例えば、この店はナチュラルワイン?の店ですよね。ナチュラルワインって何が違うんですか?」
「作り方の違いですね。厳密な定義はないんですけど、有機農法でブドウを作ってるとか、防腐剤を使っていないとか、自然な作り方で作ってるワインですね」
「凄いワイナリーだと、トラクターを使わずに馬で土を耕すことに拘っていたり、月や天体の周期に基づいて収穫したりとか、若干スピってる作り方してるとこもありますね。でもそういうとこのワインは美味しいですよ」
「めちゃくちゃ面白いじゃないですか!凄い世界だ」
「作り方の違いはこの通りですけど、デザイナーのAさん向けには『ナチュールワインはストリートファッション』って説明したいですね」
「ほう」「おお?」
「例えば、いわゆるクラシックなグランメゾン、銀座のフレンチレストランで出てくるようなワインって、ファッションで言ったらフォーマルなタキシードやスーツとかで、ブランドでいったらエルメスとかディオールとかなんですよね。それに対して、ナチュールワインってもっとカジュアルで気が抜けた方向性で、例えば東横線の高架下の小さいワインバーで、ゆったりサイズの古着の白シャツとチノパン、白スニーカーにキャップを合わせて、近所の知り合いと飲む感じ。そういう綺麗めカジュアルなファッションスタイルがナチュールの印象なんですよね」(脚注:ストリートってかシティカジュアルだなこれ)
「へ〜!面白い!」
「確かに、そのイメージは分かりますね」
「実際、そういうファッションやライフスタイルを好きな人がナチュールを好きな印象ありますよね。中目黒や学芸大学、代々木上原、広尾とかその辺のイメージ」
「で、今日のお店は綺麗めカジュアルってわけですね」
「そうそう」
「で、さっき料理とワインのペアリングの話しましたけど、ペアリングもファッションにおける『合わせ』『外す』って概念があると思っていて」
「ほう」「お〜!」
「クラシックなスーツに上質な革靴を合わせて、それでピシッと決めるのは、もちろんお洒落でカッコいいけど、平凡で保守的とも言えるじゃないですか。それに対して、綺麗めセットアップにあえての白スニーカーで『外す』のが10年前とかから流行ったわけで。料理に対しても、例えばフレンチで日本酒を合わせるとか、料理の世界を拡張するのが最近のモダンペアリングの世界の一側面だと思うんですよね」
「あ〜、カウンターカルチャーとしてのストリートが、段々とモードやラグジュアリーに融合されていった、みたいな話っぽい」
「そう言われるとナチュールワインの方向性は、近年のファッション業界におけるSDGs、サスティナブル、ナチュラルってキーワードにも近しいかもですね」
「あ〜それも面白いですね」
「で、この辺の話で、凄くハマってる漫画があって。神の雫っていう漫画なんですけど。Aさん、フランス語で『ペアリング』ってなんて言うか知ってますか?」
「えっと、『マリアージュ』でしたっけ」
「そう、マリアージュ、すなわち『結婚』なんですよ。料理とワインの結婚。そんな表現をするフランス人の感性には一生勝てないなと思っちゃいますけど。神の雫の第二部はマリアージュに関する話で、ざっくり言うと『人生と同じく料理とワインのマリアージュにも、良い結婚があれば悪い結婚があり、そして最高の結婚もある』がテーマの漫画なんですよ」
「ほう」「へ〜!」
「良い結婚って何かって言うと、地元の幼馴染同士で結婚しました、みたいな結婚。それはもちろん良い結婚だし、そもそも本当は結婚に上も下もないんですけど、それよりも、フランス人と日本人が京都で奇跡的な出会いをして、趣味も興味関心も全部一緒で、お互いが足りないところを補い合って、そしてゴールイン!みたいなのが最高の結婚だっていう話なんですよ。
自分が一番好きなのもそういうペアリングで、例えば最近いったお店のペアリングのコースだと、1つ星のフレンチのシェフが、日本の食材で、東南アジアの料理を作って、そこに世界各地のワインと日本酒を合わせるっていうコンセプトで」
「いやいやいや、なんか凄い」「要素が渋滞してますね」
「でもそれがギチギチに合う。料理とワインの全ての要素が噛み合ってる。音楽で言えば、お互いロックが好きだね、っていうレベルの趣味の一致じゃなくて、どのバンドのどの曲のどの部分が好き、みたいなところまで全部合ってる。そういうレベルの精密な合わせと、意外性複雑性世界の広がりがあるのが、令和の最先端ペアリングだと思ってます」
「いや〜、めちゃくちゃ面白いですね。凄い」
「それは一回経験してみたいですね」
「でも、最近の日本だと3割が離婚するって言いますよね」
「いやそう、まさしく。ワインと料理もだいたい離婚しがちですね。だから難しい」
「難しいですねえ」
「ちょっと前に、ちょうど今日みたいな話を、昔の彼女と話したんですよ」
「ほうほう」「おお」
「その子、俺は知らなかったんですけど、少し前に離婚したらしくて」
「ほうほうほう」「急に流れ変わってきた」
「マリアージュの話をしたら『現実の結婚は、ほとんど悪い結婚ばっかりだけどね』って言われて」
「ほう」「言葉が重い」
「『結婚してみないと分からないことって多いよね』とのことで、結局は、色々経験してみるしかないのかも、ですね」
「それはそうかもですねえ」
「それに『離婚してからの方が仲良いよ』とも言っていて。まあ、最高の結婚があれば、最高の離婚があるのかも。って話ですね」
「いやそれは坂元裕二」「ドラマ懐かしい」
「ということで、Aさんには是非ワイン勉強してほしいですね。というか、Tさんも一緒にスクール行きましょう!」
「え〜、いやめちゃくちゃ面白かったです!勉強します!」「どうしようかなあ」
………。
そんなことを話しながら、虎ノ門の夜は更けていくのだった。終わり。
※この記事は仕事仲間との会話を再構成・編集したセミフィクションです。
※こんな与太話ができる酒飲み仲間をいつでも募集しています。

Katsuma Narisawa
Software engineer and photographer exploring the intersection of technology and human experience.
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