野田 / 原宿
和食の形式にフレンチのエッセンスを加えた独創的な日本料理体験

友人から「絶対に好きだと思う」と勧められていた原宿の「野田」へ訪問。野田は元々は2011年にフレンチビストロ「kiki harajuku」として幕を開け、2023年には大胆に日本料理店へと転身。和を軸にしながらフレンチの技法と独創性を融合するそのスタイルは、まさに自分の好みにぴったりな雰囲気で、訪れる前から期待が高まる。
誰といつ行くかなあと迷っていたら訪問チャンスを逃し続けていたので、いい加減いくかと決めて一人で行くことに。これが港区美食拗らせおじさんの行動力。
場所は明治神宮前の駅の交差点の付近。タクシーで辿り着こうとしたものの道が混雑しており、途中で乗り捨てて徒歩で移動。少し遅れて到着したものの、優しく出迎えていただく。店内はカウンターが5席、テーブルが1-2個ほどあったが今日はカウンター客のみの模様。
全員揃ったところでコースがスタート。まずはコースのコンセプト説明から。具材を見せてもらったり、使用しているハーブを嗅がせてもらったりで視覚や聴覚が刺激するのも含めて、自分のこれまでの外食史でトップクラスの10分弱ほどの丁寧な説明をいただく。多少長いとは思いつつも、映画館で予告編を見ながら気分を高める感じというか、集中力を高める大事な時間である。

まず一杯目はサワー系の日本のクラフトビール。夏の暑い道を歩いてたどり着いた後には、サワーの爽やかさは良い。Kabiといい、こういうとこは一杯目シャンパンじゃなくてサワー系のビールなんだな。シャンパンほどフォーマルで華美にならず、どこかカジュアルで気の抜けた感じが店の雰囲気に合っている。

料理の一品目は冷たい茶碗蒸し。長野の天然の夏キノコの冷たい餡、ドライトマトの出汁、北海道のムラサキウニ。カツオや昆布は使わずキノコとドライトマトの出汁のみだそう。いやあ、美味しい。冷えたキノコの餡が涼しげで良い。出汁の取り方もなんというか清涼感を感じる合わせ方かな?良い。


鱧すき。まず玉ねぎが美味。玉ねぎの甘さと、すき焼き風の出汁の上品で上質な甘辛さがよい。鱧も単体で美味しいのに加えて、そこに卵黄と京都のカボチャの自然な甘みのソースが交わる芸の細かさ。あと出汁にシングルモルトウィスキーとオレンジタイムを使っているとかなんとか。情報量が多すぎ細やかすぎ系だなこれは(褒めています)。


お次のお酒はシードル。りんごの酸味とドライさは感じつつ、余韻でほのかに複雑性を感じる。料理にあわせやすい系。

蛸ちり。水蛸をスライスしたものをさっとしゃぶっている。フレッシュだがしっかり厚みがあり、旨みもある蛸が非常に良い。そして梅のソースが効いてて爽やか。それでいて、下のスープは梅と鰹節の出汁に青紫蘇とミント、叩きオクラ。新鮮さと青々しさがあり、全体を通して夏の終わりの清涼感といった印象。こちらも大変美味しい。
蛸ちりと一緒に長野の郷土料理であるおやきとカッパ巻き。おやきは郷土料理らしいクラシックさを感じさせつつ、バジルが入っておりモダンさもある。カッパ巻きもすだちと梅肉で爽やか。酸味を感じる料理が多いね。


キスととうもろこしの天ぷら。いやあ、、美味い。大変美味しくありつつ、スタンダードな天ぷらとしての美味しさよりも、少しフレンチを要素を感じる逸品。塩辛も使っているとかで芸が細かい。なかなか表現する言葉が見当たらないが素晴らしいなあ。そして夏全開で良い。

お次のお酒は静岡の「杉錦 純米大吟醸 しずく取り」。しずく取りとは袋に入れたもろみを吊るして自然に滴り落ちる酒だけを集める搾り方。ワインで言うところのフリーランジュースね〜と思いながら説明を聞く。ワインを覚えておくと他の酒にも応用が聞いて「ああアレのことね」と言えるのが良い。圧力をかけずに重力だけで落ちるため、雑味が少なく、きめ細やかで繊細な味わい。
グラスはおちょこではなく、カクテルグラスでいただく。カクテルグラスで日本酒を飲むと、カクテルのように感じてしまうのでグラスって大事だな。お味は割と王道なスタイルで日本酒度強め、しかし嫌なアルコール感はない。米の旨みがギュッとしている。

日本酒と合わせるのは炊き合わせ。これまでの料理よりも和のテイストが強いが、キャビアと酸味のソースが単純な和の要素のみではない華やかさを感じさせる。湯葉の旨みも凄い。美味しいなあ。

蕎麦雑炊。そばの身を炊いて、いりこ出汁と椎茸の出汁、舞茸やにんじん、こんにゃくなどを合わせたものと、レアに焼いた鮑、そしてポブラノという南米のマイルドなトウガラシというかピーマンを刻んだものが入っている。爽やかでありつつ、和の要素がありつつ、しかしピーマンの辛さは南米のエッセンスを感じるものであり、面白い。

お次は海亀の島寿司。八丈島の郷土料理だそうな。美味しい!海亀はクセがあるのかなあと思ってたが全くない。味の濃いマグロの赤味というか、馬肉というか、その中間の印象かな。芥子でいただくのは島寿司スタイル。
いろんな郷土料理が現代風かつフレンチのエッセンスを交えていただけて面白いなあ。この寿司は発酵マッシュルームのシャリらしく、芸が細かいというか、ストレートでありきたりの和食にしない拘りを感じる。

お次はぬる燗で「白隠正宗 夏限定 ぬる燗納涼」。いい感じだが、これはまあベーシックな印象。ぬる燗で納涼てのもおもろい。

お造り。いやあ、、、、美味い。。。シマアジは行者ニンニクも含めて旨味がヤバい。蛸に白米を詰めてるやつはぬる燗の旨味と相性最高。マグロ赤身にひも茄子とピオーネ(黒ブドウ)は新感覚。すごいな本当。


お次は伊勢海老と夏野菜の和物。ズッキーニの雷干しに、刻んだ枝豆がかかっていて香ばしい。なんというか、何をどうしたら伊勢海老と夏野菜を和えようと思うんだ?という逸品。めちゃくちゃ美味しい。
合わせるお酒は山ねこの銅蒸留。 普段あんまり焼酎は飲まないし、特にペアリングのシーンでは飲まないのだが、これはお湯割によるラベンダーの香りが夏野菜の爽やかさにマッチして非常に良い。


マース煮。塩と水で魚を煮る沖縄の郷土料理。塩の出汁スープを飲むと沖縄って感じがするね。色んな地方の味が食べれて面白い。

長野のB級グルメの「ローメン」。羊の生産が盛んだった長野県の伊那地方の特有の麺料理で、茹でないで蒸して作るなど色々ユニーク。お味はB級グルメな世界観がありつつ、しかし当然ながらそれだけでない上品さ複雑さもあるというか。セルビアのオレンジワインと長野のB級グルメがマッチしてしまうのも面白い。


お次は「よごし」。北陸から山陰地方の広範囲で作られている郷土料理。
この辺からやや酔っ払って集中力が落ちてきたのと、自分と同じく一人で来ていた隣のお姉様や若者と打ち解けて雑談を繰り広げてしまったので味の記憶が疎か。一人でカウンター席で食べてると、周りと話しやすくて良いよね。そして一人で野田にくるイケイケなお姉様好きすぎるな。

焼き物のその1として北海道のメス鹿のロースと燻製したビーツ。鹿肉を赤ワインで1回つけてから炭火で焼いているそうで、その分しっとりとした印象。


本当は焼き物は1品のみだが、良い鰻が入ったのでということで今日は2品の特別会。鰻重をいただく。白トウモロコシをソテーしたご飯と、焦がしバター味噌を混ぜたタレ、そしてご飯の下に奈良漬。いやあ。。凄いな。。鰻重だけど、フレンチな要素があるが、フォーマットはやはり和食であり、しかし古酒赤ワインに合う。何なんだろうか??感動してしまった。



最後のお酒は甘味に合わせて飛鳥山の古酒味醂。黒蜜のような味がする日本酒で、最中にも羊羹にもベストマッチ。ワインでいえばデザートワインを最後のスイーツに合わせるような組み合わせなわけだが、あくまで最後まで和のフォーマットを崩さない。


デザート後にコーヒーをいただいて、周りのお客さんや野田さんとゆっくり歓談。18:30すぎに入店して、退店したのは22:00すぎ。3時間半ほどのんびりと過ごさせてもらった。
いやあ、前評判に違わず素晴らしいレストランだった。料理のフォーマットは確実に和食なのに、随所にフレンチのエッセンスが潜んでいて、「見慣れているのに、見たことのない料理」という独創性を放っている。親しみやすさと新鮮な驚きが同居しているのが実に面白い。そして各地の郷土料理を取り入れているので、まるで日本全国を旅しているかのような感覚にもなる。
日本食材を活かしたイノベーティブなネオガストロのミーとしては目黒のkabiを思い出す体験だったが、kabiが北欧ガストロノミーの文脈を感じるのに対して、野田はフレンチと日本料理のエッセンスを感じる方向性。こういう良い店に出会えると嬉しくなるね。また季節が変わったら訪れたい。

Katsuma Narisawa
Software engineer and photographer exploring the intersection of technology and human experience.
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